2015年6月6日土曜日

井月の影を慕いて、ぶらり伊那谷へ


井月とは、せいげつ、と呼びます。私の好きな俳人のひとりで、年代的には幕末から明治の中期までのひと。もとは武士だったらしく、でも詳しい素性は知られていません。

そこで書物も少ないのですが、彼の詩情、句を詠む状況、生き方。

強く惹かれておりまして、こころが苦しくなった時に彼の俳諧の本をとりだす。残されている句作を反芻しているうちに、ああもっともだと救われていたりもしまして。

その彼が、突然あらわれて、、地域に浸透し、終焉を迎えた土地。長野県の高遠町、伊那市。伊那平とか伊那谷と呼ばれている一帯。

地形的、交通のルートとしても、関東からはなかなか行き辛くて遠い街。

そこへいきおい、ハラを決めて、ぶらりと、とんぼ帰りして参りました。もちろん、本ブログのメインテーマである釣り竿は片時も離さず握りしめておりました。

山深くとも、水、川あれば、魚はいらっしゃるだろうと。苦笑、自嘲、の徘徊。


休みの日。朝いちの新宿発あずさ号は甲府から傾斜を駆け上って上諏訪駅に到着。

ホームには足湯がある。さすが湯量の日本一。太っ腹だぞ諏訪市。いやJR東ニホンなのか。しかし以前は足湯も露天風呂だったとか。緊縮したのか? それはどうでもいい。


思わず目のいく、上諏訪駅前の、飲食街。

いい感じ。「朝定食」という文字もたまりません。呑んだ、ハシゴした、朝になった。

いえいえ。出勤のため駅にきた、朝を食べずに家を出た、電車に乗る前、なんか喰うか。

全国一律、どんな街に行っても、私のような人はいらっしゃる。うれしかあ。

諏訪地方という、どちらかと言えば「堅実」なイメージの街にもこれはある。

朝定食のしたに「そば」と書かれているし。

しかしいまは、それは、どうでもいいこと。先を急がねば、、、、、、、、、、。


ところが、、、、、、、、、おったまげました!!!!!!!!!

飲食街の並びにコンビニ、それはフツーですが、店内に「立ち食い蕎麦」がある!!!

まったくもって、フツーではありません。見落とせない。尋常ではないコンビニ。

コンビニといえば、24時間営業は当たり前、長野県といえば蕎麦の聖地。

意地がある。立食いそばぐらいは、24時間やったろうやないの! みたいなオーラ。

しかし、今日はいままで以上に時間がない。帰りの電車寸前に食べるしかないと沸き上がった欲求にブレーキをかけて、立ち去る。帰りに寄ります。必ず。

レンタカーで駆け出しました。後ろ髪ひかれながら。


まるで学府のような威容を誇る建物。諏訪湖畔に建つ「片倉館」

昭和の初期に、養蚕と製糸の女工さんへの福利厚生で建てられた千人風呂とか。

これにもたまげました。

正直な話、私の生まれた家の近所にも「片倉さん」の巨大な製糸工場がありました。だから「片倉さん」は地場の会社なのだと幼少より信じきっておりましたが、諏訪湖のほとりが本家本元なのですね。凄すぎます片倉さん。

世界遺産になった富岡の工場だけでなかったんですね、凄い、すごすぎる。


開湯時間(いまも現役稼働)は10時。千人風呂。見てみたい。入ってみたい。

湯量日本一の上諏訪温泉を掛け流して1000人の女子をいっぺんにお風呂に入れた片倉さん。すごすぎます。悠久なるシルクロードの旅。行き尽いたのは諏訪湖でしたか。

しかし、今回はあまりにあまりに時間がないので、こちらも後ろ髪引かれる想い。

それぐらい、伊那谷は、遠いところなのです、湯浴みできなくて、ごめんなさい片倉様。


上諏訪駅から国道20号を南下。茅野市からワインディングをいっきに駆け上った杖突峠。

杖を突いて上がった先人たちの苦労の偲ばれる厳しい勾配もいまは国道。

アクセルを踏み込んでジグザグにハンドルをきって峠の茶屋での一景。

ベランダ状の展望台からは、さっきまでいた諏訪湖が一望できました。


杖突峠をピークに、高遠町を目指してすこしづつ高度をさげる。

里山の現れるたびにちいさな川が現れて、棚田をくだって水かさが増えていく。

黒い影がちらほらと四散するのは、どんな魚なのか?

前日に雨が落ちたこともあり、濁り気味の水のなかに目を凝らしたり。

いわゆる、里山ツーリングの様相になってきました。


高遠町に到着。

城跡の高台から城下、伊那谷にかけての街並が見渡せました。

向こうに見えるのが中央アルプス。山の頂きにかかる雲のまにま。

初夏の青空に雪山がほんの少し頭をのぞかせてました。

井月さんは、いいところを見つけて、暮らしていたようです。井月の句作。

落栗の座を定めるや窪溜り

各地を漂泊、放浪してきた俳人が、定めし住処と感じたのでしょうか。


高遠藩は、譜代大名(徳川家の親族および代々の御家人など)が治めた地。

前回ブログの金沢・加賀前田藩は外様大名の最大級ですから、まったく違った身内の小藩の趣き、といえます。そこがまた、こじんまりして落ち着いています。

その「城下通り」を歩いているうちに、気がついたこと。

城下のメインストリートはキレイに新装開店。それがどこか川越市に似ていたりして。

つまりは、伊那にも「小江戸」があったのかなと、漠然とした感情が、、、、、。


高遠町から伊那市にかけての緩い傾斜の水田地帯。井月のお墓を探して走り回る。

早苗の植え終わった水田に中央アルプスの山々が映る。

なんとも勇壮で、美しいパノラマに、見惚れて、立ち止まる。

井月は詠む。

泥くさき子どもの髪や雲の峰

農村で遊ぶ子どもたちの、いきいきした様子が窺えます。


数基の墓石が集められた木立、ついに井月のお墓を発見。

案内板がなければ、見つけられないほど、ささやかな場所でした。

井月の最後は、野垂れ死に。かつての俳友たちのなかで、こころある者によって、

せめてもの供養が施されたようでした。辞世の句とされる吟詠。

何処やらに鶴の声聞く霞かな


川原から、拾ってきたとおぼしき小さな丸石がお墓。

井月らしい。思わず手をあわせて、埋葬した人たちの気持ちを想いました。

どこからか、ふと現れて、伊那の地で吟行にあけくれた井月。そして最終章へ。

お酒が大好きだった故人を偲んで、ワンカップが手向けられていたりして、

今日もなお井月の詩情を愛する人の多いことを再確認。私の好きな井月の発句。

酒さめて千鳥のまこときく夜かな

私も毎日、いや釣り場でも、身に沁みて痛感の極みであります。反省。するのですが。


井月の墓参拝も終えて、川原へ出ました。

高遠町から伊那谷へ流れ落ちていく三峰川の河岸で竿を出す。天竜川の支流。

後方は南アルプスへ連なる山々。つまりは、伊那の一帯はふたつのアルプスに囲まれている。開墾は大変だったでしょうけれど、陽当たりがよく、水に恵まれた土地。

しかもアルプスに囲まれているのならば、そう簡単に攻められない。

この土地に目をつけた先人の先進性を想いました。


岸辺のヨドミを流した玉ウキが勢いよく動く。

下流へクーンと走って魚が躍り上がりました。アブラハヤ。

思えば、久方ぶりに魚のアタリや引きを体感したような。アブラハヤ。いやはや。

しかも、いままで、こんな大きなアブラハヤは初めてでした。婚姻の季節。

カラーは鮮やかだし、お腹が大きいし。すぐに流れへ戻しました。


立て続けでアブラハヤが掛かる。こちらも、おなかが大きい。流れへ戻します。

喰いが立つ、という言葉がありますが、日中から玉ウキがよく動きます。

伊那は、初夏を迎えて、魚たちの胎動が始まっているようでした。井月の句作。

魚影のたまたま見えて水温む

流れを触ってみたら、まだ冷たく感じましたけどね。


新緑と川音と、、、、、、流れる玉ウキを見つめる時間。贅沢です。

私はどちらかと言えば、竿にビビっとくる感覚が好きなので、竿先と玉ウキを張ってました。でも、玉ウキを外すとアタリが取り辛くなる、、、、もっと粘磨ですね。

4尾目を釣り落としたところで、なんとなくですが、溜飲のさがった想い。

きっと、この川で、井月も行水をしたり、洗濯をしたり、、、、。

時には、子どもたちと、魚取りに夢中になったり、、、、、、。


ありました!!!

河岸に井月の句碑。子どもたちに負けじと、お尻までまくって鮎取りに興じた夏の日。

後世の人たちに、井月は普遍の愉しみを伝えているのでした。

ここで納竿、、、、ひと区切りとしたのは帰りの電車時間を促す西陽でした。その前に。

なんとしても、上諏訪駅前のコンビニ店内の立ち食いそばへ行かねば、、、、、。

酒とそば。井月さん、私は貴殿を超えた道楽者かもしれません。


 前を行くクルマを追い立てるように走って上諏訪駅。レンタカーを返してコンビニ内の立ち食いそばコーナーへ飛び込みました。

新聞の切り抜きによると、かつて人気を博した中央線・上諏訪駅の駅そば。

これが消えたことに発奮した駅そば好きの店主がみづから復活させたのとか。

つくづく、熱いオトコであります。記事を読んだだけで、期待値が急上昇。


天ぷらは、揚げたて。麺は平打ち。出汁は、きつくなく、ゆるくなく、程よい塩梅。

納得の充実感でした。同時に思ったこと。24時間営業のコンビニエンスだから出来るスタイルの立ち食いそばではなかろうか。ずっと開けているのなら、立ち食いそばも今日に響きあうコンビニ食。コンビニの温かい和食。

西へ行けば、うどん。になります。店主は慧眼なり、なんて、妙に感動の一杯でした。

お腹も膨れて乗り込んだ上りあずさ号。ハイボールの酔いが醒めたら喧噪の新宿駅。

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